お店の大家さんが亡くなった。
五年前、スカラをオープンする際
紹介されたのが今の場所。
その頃はバイパスが出来たぐらいでまだ周りは
何もなく空き地ばかり。
お店の場所探しにほとほと疲れていた僕は
今回こそ!と期待を胸に大家さんと会った。
その老夫婦は明るく、気さくそのもので期待と焦りでささくれ立っていた僕に妙な安心感を
与えてくれた。
そして何より駐車場付きで店の外観から内装まで
好きにしてくれていいというのが魅力だった。
でも当時はUターンしたばかりで顧客はゼロ。
新たに建物ごと建てる大家さんの負担を考えると
急に逃げ腰になったのを覚えている。
無事にオープンしたものの、まだまだお客が少なかった当初、ご近所の友達をたくさん紹介してくれたが連日やって来るのは背中の曲がった
お婆さんばかり。
顧客が少ないくせに店のイメージばかりが
先走っていた僕は困惑していた。
いま思えば恥ずかしい話だが固定客がすこしでも定着するまでの
大家さんの優しい配慮だったのだ。
先にご主人に先立たれ、癌に冒されながら
元気なときには畑で採れた野菜をくれたり
あるときは営業中
「このたくあん、うめえから食べてみられー」と
店内中にあの強烈な臭いがしたりしてたっけ。
またどうしても犬が飼いたかった僕達は恐る恐る
「あの~、犬とかって飼ったらダメですよねえ?」
すると「ええよ、ええよ。」と
気持ちよく許してくれた。
後日「あんた、おもしれえ顔の犬じゃなあ」と言いながら大家さんもやたら吠えまくる
ミニチュアダックスを飼いだした。
しかも家の外でだ。どうりでよく吠えるわけだ。
そんなちょっとピントがずれたところも好きだった。
亡くなる数日前、お店に飾っている桜を分けとり
見舞いに伺った。ずいぶん痩せ細った姿だったが
もともと美人顔で嬉しそうな笑顔がいまでも忘れられない。
最後まで気丈で明るくユーモアがあった大家さんに
心から感謝とご冥福を祈りたい。